A・バージェス『エンダビー氏の内側』
シニカルで、一筋縄では行かない多様な作品と、イーヴリン・ウォーと並ぶイギリス的な作家。放逸な詩人エンダビー氏が結婚、施設への入院で、反抗しつつも次第に矯正されていく、「カッコー巣の上で」などを思わせる、いかにもカウンター的/60年代的な作品。
丸谷才一編『ロンドンで本を読む』の再読で読みたくなったバージェス。紆余曲折のある文章の魅力。続編の「外なるエンダビー氏」も読みたいのだが、(1982年は出版の)解説では翻訳の刊行予告もされていが、訳者の出淵博氏は亡くなられており、難しいかもしれない。
ー「奇妙な一年だったな」とエンダビーは思い返していた。潜在的な死をポケットにしのばせ、浮き立つような温かいビールのほてりの残る、キャンディのようにふわふわした感じの遊歩道を、ボガードロードのほうに逸れながら。奇妙に虚しい一年、あるいは一年に近い月日。
青木耕平補完「アメリカ文学ポップコーン大盛」
M・トウェインとR・クーヴァー、プレスリーを巡る小説、F・E・エリスの言説と作品、グラフィック・ノベルといったアメリカ文学に関すること、その背景、さらには翻訳について、幅広く未訳、既訳の作家、作品の紹介/批評は面白く読みたい本ばかり。
まずは、2010年代最高の小説10冊に選ばれたというジャスミン・ウォード「歌え、葬られぬ者たちよ、歌え」を読んでみたい。
かつて世界×現在×文学 作家ファイルで多くの作家/作品/翻訳家を知ったように、これからのレファレンスとなるような一冊。
ー2018年は、プレスリーをめぐる二つの傑作小説が出た年でもあった(もちろんその背後には、スティーブ・えりくそんの忘れがたき傑作「シャドウバーン』がある)、そして、その2作はいずれもフィクションといあぶきをくしし、偉大なミュージシャンを描くという次元をはるかに超えた広がりを持っている。
元旦は、例年通り、モノポリー、ブリッジとゲーム三昧をして過ごす。
堀込高樹/Home Ground 、そしてキリンジ/KIRINJIを、音楽はじめに、その間、ずっと聴いて。
本は、新訳のバルト/テクストの楽しみを。
https://youtu.be/0-OuvatePIQ
(本当に)いろいろなことがあった今年、なんとか仕事を納める。きりよく通勤時に読んでいた、『パイド・パイパー 自由への越境』も読了。
ネビル・シュート『パイド・パイパー』
先日の読んだ「渚にて」がよかったので。
70歳のイギリス人弁護士がフランスの田舎から、(次第に増える)子どもを(余儀なく)連れてイギリスへ帰ろうとするストーリーは、そもそもなぜフランスにいたのかのサブストーリーと絡め読ませ、最後はしんみりと。
イーヴリン・ウォーの伝記に、同級生は皆、ネビル・シュートを読んでいたという記述に、当時の人気を伺わせるし、この作品での戦時下でのイギリスでの生活の描写は、ピンチョンの「重力の虹」を思い出させるところがあり、そこも興味深かった。つぎは、イギリズつながりで、バージェス/エンダビー氏の内側を。
瀬川昌久×蓮實重彦『アメリカから遠く離れて』
パーカーのライブを見た/ヌーヴェル・ヴァーグ下のフランスに滞在した二人の対談は、瀬川昌久の生い立ちに沿って進む。そこでは、アメリカ文化の影響を受けた戦前の成熟した文化と戦争へ向かう状況、翻っては同時代的な検証までがユーモアを交えながら語られる。
ー表面的には反西欧的な姿勢をとっているかに見える監督のマキノ正博は、その細部においては、ハリウッド映画にオマージュを捧げていることになります。見る人が見れば、ああ、グリフィスだ、ああバークレイ的なミュージカル・シーンだと識別できるようになっているからです。それは、戦時下でありながら、日本にもある種の文化的な高度化が達成されていたことを
イード『イーヴリン・ウォー伝人生再訪」
冒頭4ページに渡る家系図に驚くが、その末裔として1903年に文芸評論家の息子とした生まれ、(ブライズヘッド再訪の背景ともなる)パブリック・スクールからオックスフォードへと、社交と(ロマンチックな関係も含めた)友情という狭い世界で小説を書き、世に出る。
二度の世界大戦を経て絶滅をすることになる(それは、吉田健一が繰り返し指摘しているが)イギリスのブルジョア階級について、詳細に記述しているところがとにかく面白く興味深い。ウォーの小説の世界の説明としてこれ以上のものはないのでは、とも思う。
ー華麗で明晰極まりない文章を書いたウォーを頁の上で理解し愉しむのはごく容易だが、彼の性格の特異さは、空想や喜劇的効果、悪戯っぽい擬態を好む性癖ゆえに見抜くのが難しい場合がある。奇矯で、時には人を怖がらせる態度は、日常生活の退屈さと絶望感に対する防御を狙ったものである場合が多かった。
さてこのあとは? 人は自分の欲望によって書く、そして私はまだ欲望し終えていないのだ。