京極夏彦『了巷説百物語』
嘘を見破ることができる(新しいキャラクター)稲荷藤兵衛が、これまでの事件を調べるという体裁で始まる。それにより(既刊の)復習にもなり、また事件が違った側面(仕掛ける方ではなく、仕掛けられる方の視点で記述される面白さ。中盤から中禅寺秋彦の曾祖父(憑き物落とし)中禅寺洲斎が登場。「化け物使い」の一派と三者揃い。(ゲスト的ではなく、堂々と主役を張る)あたりの高揚感はかなりのもの。語りも一気にアクションの連鎖となる当たりは圧巻。二十五年以上七冊にわたるシリーズの最後(既刊の主な登場人物も出揃うなど)にふさわしい、集大成感がある。
ー「入るよ」
「どうやって」
「儂は中禅寺を待つ」
「いや、そういえば中禅寺殿はどう動くおつもりなのだ。あの人はー」
おいおいおいと言って源助は地面を擦って藤兵衛の前に回り込む。
「門を叩いてご免くださいとでも言うってのかよ」
「そうであろうな。あの男は荒ごとはせん。ご定法も守る。礼も尽くすだろうの」